「まずは問い合わせ対応から」。社内へのAI導入のご相談で、いちばんよく出てくる案です。件数が多く、削減できる時間が見積もりやすいので、稟議にも書きやすい。理屈としては分かります。
ただ、ここから入った会社は、かなりの確率で途中で止まります。原因はAIの精度ではありません。間違えたときに、取り返しがつかない場所から始めてしまったからです。
社内へのAI導入で最初に決めるべきは、ツールでも、対象部署でもありません。「間違えたときに取り返しがつくか」という線を、どこに引くかです。この線さえ引けていれば、着手すべき業務は自然に決まります。引けていないと、どこから始めても同じところで止まります。
考えてみてください。AIが作った返信文が、そのままお客様に届いたとします。内容が少しずれていた。何が起きるでしょうか。
まず、取り消せません。送った文面は相手の受信箱に残り、相手の中では「その会社がそう言った」という事実になります。次に、気づくのが遅れます。社内の資料なら読んだ人がその場で「これ違うよ」と言えますが、社外に出たものは、相手が指摘してくれるまで分かりません。そして、担当者の一存では収拾がつきません。上長への報告、場合によっては法務や責任者の判断まで巻き込むことになります。
ここまでは、まだ実害の話です。本当に痛いのはこの後です。
一度こういうことが起きると、社内の空気が「AIは危ない」で固まります。そうなると、次に出す提案の中身がどれだけ良くても通りません。最初の一件で失うのは時間ではなく、二回目の機会です。
つまり、顧客対応が悪い業務なのではありません。最初に置く場所として不向きなだけです。手順と確認の段取りができた後なら、ここは十分に効く領域になります。順番の問題です。
当社では、AIに任せるか人が持つかを、能力ではなく「間違えたときに取り返しがつくか」で分けています。判断に使っているのは、次の4つの問いです。
この4つに答えていくと、業務はきれいに二つに分かれます。
取り返しがつく側(早く着手してよい)
取り返しがつきにくい側(手順ができてから)
当社は、自社のマーケティング(集客・メール配信・SNS・計測)そのものをAIエージェントで運用していますが、外に出る直前には必ず人の承認を挟んでいます。AIが単独で公開したり配信したりすることはありません。この線の引き方は私たちの働き方で公開しています。
順番は、次のようになります。
第一に、社内で完結していて、毎週必ず発生していて、出来の良し悪しがその場で分かる業務。 この3つが揃っている業務が、最初の一手です。毎週発生することが重要で、月に一度しか起きない業務から入ると、良し悪しの判断がつく頃には数か月が過ぎています。
第二に、同じ工程の「下書きまで」をAIに、「出す判断」を人に残す形。 全部を任せるのではなく、工程を割ります。ここで「どこまでをAIが作り、誰が何を見て承認するか」という段取りが社内に残ります。この段取りこそが資産で、ツールの選定より価値があります。
第三に、社外に出るもの。 ここに来るのは最後です。前の段階で確認の型ができているので、事故の起きる余地がかなり小さくなっています。
逆から見ると、失敗する順番は分かりやすいです。効果の大きい業務から手をつけ、社外に出るものを最初に置き、うまくいくかどうかを人の目で確認する段取りを決めないまま走る。 この順番だと、ほぼ同じところで止まります。
社内の担当者がいちばん困るのは、実は導入そのものではなく、会議で出る反対です。よく出るのは次の3つでしょう。
「情報が漏れるのではないか」
これは線引きの話です。どのデータをAIに渡し、どのデータは渡さないかを先に決めておけば、答えられます。決めていないと答えられません。反対されてから考えるのではなく、提案に含めておくものです。
「品質が落ちるのではないか」
「最終確認は人が行う」ではなく、「誰が、何を見て、どの段階で確認するか」まで書いてください。反対は感情ではなく、責任の所在がはっきりしないことへの警戒であることがほとんどです。最終責任者の名前が書いてある資料は、通りやすくなります。
「人が要らなくなるという話なのか」
現場の抵抗はここから出ます。最初に手をつけるのが下書きや整理の工程であれば、判断は人に残ると具体的に説明できます。逆に、最初から判断を任せる案を出すと、この反対は正しい反対になってしまいます。
なお、社内の理解を揃える手段として研修を検討される場合、費用の考え方と助成金の扱いは生成AI研修の費用相場と、使える助成金の考え方にまとめています。
大がかりな調査は要りません。紙一枚で足ります。
上に来た行が、最初に手をつける業務です。ここで注意していただきたいのは、この作業をAIに任せないことです。どこに線を引くかは、その業務を実際にやっている人にしか分かりません。
社内へのAI導入は、能力の高いツールを選ぶ仕事ではなく、任せてよい範囲を決める仕事です。当社がお手伝いする場合も、最初にご一緒するのはこの線引きです。ご相談はお問い合わせからお願いします。